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「貧困」ってなに?-社会福祉ミニ知識

第4回<何でホームレスが公園にいるの?>

 

聞きたい人:

「何だか、渋谷の公園にいたホームレスが、工事があるからって公園から外に出されたみたい(2012年)。どうして公園にいるの? どうして公園から出て行かないといけないことになったの? 抗議なんてしないで、福祉に行けばいいじゃない。」

 

答える人:

「2012年6月11日朝、突然、野宿者が生活したり夜間宿泊している渋谷区立美竹公園と渋谷区地下駐車場が渋谷区に封鎖されました。そこで野宿する人たちは、1週間ほどで公園から出て行くようにと言い渡されたということです。その後、7月30日には行政代執行が行われ、公園からは完全に排除されました。

 

 背景などの考察は、「611渋谷同時3箇所野宿者排除反対ブログ」、あるいはこの場所の野宿者と関係している団体の「のじれん」と「聖公会野宿者支援活動・渋谷」のホームページで詳細に行っていますが、行き場所がないからこの地に生活する人たちを、何の予告もなく(「のじれん」によれば、事前の問い合わせに渋谷区は「排除予定はない」と返答していたとのこと。)追い出し、その後のことを顧みないということは、大きな問題があるといえます。

 

 6月11日の件では、法律上の観点からも様々な問題があります。

 法律上のホームレスの定義が、国際的にみて大変狭いなどの問題があるといわれる「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」 ですら、第11条では「当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立の支援等に関する施策 との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとる」としていて、「適正な利用が妨げられているとき」「法令の規定に基づき」「必要な措置をとる」ことを規定しています。 今回は、公園整備のため、80周年記念行事のため、防災拠点のためなどと、閉鎖の理由がそのたびに変更していて理由が明らかでなく、また法令の規定に基づいていないという点で問題があるといえます。

 同法9条ではまた、「都道府県又は市町村は、第一項又は前項の計画(注:ホームレスに関する問題の実情に応じた施策)を策定するに当たっては、地域住民 及びホームレスの自立の支援等を行う民間団体の意見を聴くように努めるものとする。」としていますが、のじれんも聖公会野宿者支援活動・渋谷も、閉鎖は寝耳に水だったようです。

 

 日本は、私有地が非常に多い国で、しかもその管理は諸外国と比較して厳しいものがあります。自ずと公有地での野宿は公園や河川などにならざるを得ません。そこで生活する野宿者への十分な社会福祉的施策も行われていないのが実情です。

 

 ホームレスについての国の政策や強制立ち退きについては、2001年に「国連・経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」で出された「規約第16条 及び第17条に基づく締約国により提出された報告の審査―経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解―」で問題にされています。

 

  • 委員会は、全国に、特に大阪の釜ヶ崎地区に、多数のホームレスの人々がいることに懸念を有する。委員会は、締約国がホームレスを解消するための包括的な計画を策定していないことにさらに懸念を有する。(29)
  • 委員会は、強制立ち退き、とりわけ仮の住まいからのホームレスの強制立ち退き、及びウトロ地区において長い間住居を占有してきた人々の強制立ち退きに懸念を有する。この点に関し、委員会は、特に、仮処分命令発令手続においては、仮の立ち退き命令が、何ら理由を付すことなく、執行停止に服することもなく、発令されることとされており、このため、一般的性格を有する意見4及び7に確立された委員会のガイドラインに反して、あらゆる不服申し立ての権利は無意味なものとなり、事実上、仮の立ち退き命令が恒久的なものとなっていることから、このような略式の手続について懸念を有する。(30)

(当該文書の外務省の仮訳は こちら でみられます。)

 

 野宿されている人の多くは、法的な権利があるのに以前生活保護の申請を受けてもらえず、生活保護ではなくて自立支援システムという生活保護法外のサービスを利用するように強いられ(この制度には制度的な問題があるのですが、それはいずれ取り上げます。)、また生活保護の申請ができても、ひどい住環境の宿泊所に泊まることを強いられ、アパート移行を希望してもかなわない時期が長く続いて、福祉に対してとても怒っていたり、絶望していたりして、福祉関係部署との関係が極めて悪い人もかなり多くいます。」

 

 ある役所の社会福祉課の年配のベテラン職員さんと話しをした時に、こんな風におっしゃっていました。

 「関係がうまくいかなくて困ったなあ、ということはたくさんあるけれども、私はね、市民(citizen)であるその人を無視したりとか、『あの人が悪いからしょうがない』とか理由をつけて、その人にかかわらないようにすることは決してしない。どんなにかかわるのが難しい人でも、何かの方法を探ろうとするよ。」

 実際、この役所のどの職員さんともうまくいかない、でもうまくいきたいと思っている方との関係を築こうとして、相手の言葉に忍耐強く耳を傾け、粘り強く働いていました。最後の「防波堤」である役所の職員さんが無視したら、その人はどこで公的な支援を受ければいいのでしょうか。その責任の重さをしっかりと受け止めての発言でした。

 もちろん、世の中そんなに簡単ではありません。官僚制の問題も考えないといけないでしょう。今回の渋谷の件は一人の職員さんの努力でどうにかできることでもなく、また状況も少し違います。しかしきれいごとや逆に限界ばかりを言い連ねるのではなく、難しい問題に取り組んでいるこういう社会福祉関係の行政職員さんとその職員さんを支えている行政組織は存在しています。渋谷の一件は、公園課が前面に出て福祉課の方の動きがあまり見られなかったようです。